Candy

プロイセン×日本

男の身体と言うものは実に現金に出来ているものだ。

「…はぁ…、はぁ…、はぁ……」
まだ火照る身体、湿り気のある熱い息、そして大きく脈打つ心音。
しかし日本の心は既に冷めていた。
否、同じベッドで日本の隣に横たわっている「彼」もきっと同じ気分だっただろう。
先ほどまであんなに熱く激しくお互いを求め合ったのに、ひとしきり燃え上がり、精を放てばその瞬間から正気に戻る。
唇を合わせ、舌を這わせ、爪あとが残るほど強く抱きしめた彼の身体。
今では触れることも触れられることも嫌悪でしかなかった。

ちらりと「彼」―プロイセンの方に視線を向ける。
一瞬目が合い、お互いに視線を逸らした。
精液で濡れた下腹、腰に残る鈍い痛みと違和感、そして身体全体に広がる倦怠感。
胸を締め付ける痛みは罪悪感か…。
日本は小さく溜息をついた。
脳裏を掠める金色の髪と緑の瞳。
…いや、罪悪感なんて沸くはずはないのだ。

日本は目を閉じそのまま気だるいまどろみの中に身を沈めた。






一八八二年、日本は己の国に憲法を作成するべくドイツ帝国の盟主であるプロイセンに留学した。
それまでオランダが持って来た風説書でしか知らなかった欧州に、日本は大変感銘を受けた。
日本を受け入れてくれたのは銀髪灼眼の青年と金髪蒼眼の少年だった。
銀髪の青年は初めて会う日本を百年来の友人を迎えるようににこやかに接してくれた。
日本は全く知らなかったのだが、オランダによって伝えられた日本文化が欧州で他のアジアの文化と共に「シノワズリ」として定着し、その中でもマイセンなどの陶器は強く日本の古伊万里焼きの影響を受けていた。
また美食家であったフリードリヒ二世は日本の「醤油」を肉料理のソースに使うことを非常に好んでいた。
そんな背景もあり友好的に接してくれるプロイセンとは逆に、まだ幼い風貌の美しい少年「ドイツ帝国」は眉間にしわを寄せ口を真一文字に結んで、まるで日本を威嚇するかのように睨み付けて来た。
そんなドイツの振る舞いをプロイセンが嗜める。
「すまねぇな、アイツはまだ生まれたばかりで周りの国に舐められないよう背伸びしていっぱいいっぱいで、とても東洋からの客を歓迎するような余裕なんて無いんだ」
後からそう言って謝られたが、自分だって昔はそんなものだったとプロイセンに笑って告げた。
昔「小国だからと言って舐められる訳にはいかない」とばかりに己を「太陽の昇る国」と名乗った幼少の頃を思い出した。

宛がわれた部屋に入り、一人になった所を見計らって、日本は大きな溜息をひとつ吐いた。
「………」
初めて見る欧州は美しさも素晴らしさも確かにアジアより上かもしれない。
しかし我が大日本帝国だって欧州の国々に負けない歴史と伝統、そして教養があると思っている。
幕末にオランダから見せてもらった風説書で知った事実上の清の半植民地化を反面教師にし、そしてあのアメリカによる強引な開国により欧米から押し付けられた不平等な条約からこの身を守る為に日本は欧米化への道を選択した。
しかし頼りにしていたはずの、江戸時代からずっと自分を対等以上に扱ってくれたオランダは掌を返したように日本に対して冷たくあしらうようになった。
それは日本にとって大きな衝撃だった。
そして理解した。
今まで日本に来ていたオランダは「東インド会社」であり、明治になってから日本に来るようになたのはオランダ「政府」なのだ。
つまり「国」としての彼はやはり日本を蔑んでいたのだ。
それを理解し、甘んじた代わりに日本は欧米に対して一線を引いた。
もう彼らの甘言には乗らない。向こうが己を搾取するつもりならこちらは向こうをとことんまで利用する。
不平等条約を突きつけられながらも、欧米に取り込まれない為に取った策が「国の欧米化」だった。
欧米人よりも彼らのモラルを理解しそれに従い、彼らよりも正しく存在する事が日本にとっての密かな宣戦布告であった。
そして日本の欧米化を知ったアジア諸国は彼を異端視するようになる。
自国、そしてアジアの尊厳を捨て欧米に尻尾を振った愚かな国、そんな風に見られたのだろう。
日本はある意味世界から孤立していた。
しかしそれは全て国を守る為なのだ。
今は不平等な立場ではあるが、何とかして欧米と肩を並べる国にならなければならない。
「自分は正しいのだ」
そう思うことで折れそうになる心を奮わせるのが精一杯の状態だった。




オランダ語とドイツ語は似ている。
日本は昔取った杵柄を生かして、何とかドイツ語の本を読めるように勉強した。
そして書斎に籠もり、一人黙々とゲルマンと欧州の歴史を学んだ。
そんな中で、ゲルマン民族は遠い昔からラテン民族から差別を受けていたことを知った日本の心中は複雑だった。
野蛮なバーバリアンと蔑まれながらもラテンの宗教を受け入れ、強さと勤勉さで大国を築き上げた彼らに己の心中を重ねる。
他人事として受け取ればとても胸がすく話だが、現実では日本はこの国を超えなければならないのだ。

「それは何だ?」
単に愛想の悪い子供だと思っていたドイツだったが、日本がつい無意識にやってしまう事によく気が付き、そして質問してくる。
日本は出来るだけ欧州の習慣を取り入れようと思っているので自国の風習をここには持ち込まないようにと思っていた。
着るものも洋服のみ、そして肉を食べることも極力受け入れた。
「はい?」
「今、ナイフとフォークを取る前に両方の掌を合わせただろう?」
ああ、と日本はにっこり笑った。
ついいつもの癖でやってしまった事だった。
「日本では食前と食後には手を合わせる習慣があるのですよ」
食前には食べ物を神から戴く事、自分を生かすために他の生命を身体に取り込む事への感謝を込めて。
食後には自分への食事を作ってくれた人と食材を集めてくれた人に対して感謝の意を示す為。
その斬新な考え方に幼いドイツは感慨深く頷いた。
そんなドイツを見て微笑む日本。
プロイセンはその微笑みを見逃さなかった。

プロイセンは江戸の頃から日本を狙っていた。
勿論あの頃はオランダが日本との交易を独占していた為なかなか手出しは出来なかったが、オランダから日本へ送る識者や職人などを工面するときに密かにスパイを潜り込ませていた事もあった。
そして結局それらの工作は実を結ばなかったが、今現在日本にとって一つの時代が終わった事、国を開き欧米諸国との交易気を受け入れた事、そしてその事により日本とオランダとの関係が希薄になった事、そして日本が新しい国造りの為に自分をを頼って来た事、これらが一気に起こった事はプロイセンにとって千載一遇のチャンスだった。
日本の文化も魅力的だったが、プロイセンとドイツ帝国にとって「ロシアの東隣」という地理的状況が一番重要な所だった。
日本に植民地を作ればロシアを東西から挟み込む事だって可能だ。
(当時ポーランドはプロイセン・ロシア・オーストリアに分割されていた為ロシアの西隣はプロイセンだった。)
しかしアメリカの無理強いを受けたり、イギリスに付け入られたりと開国早々手痛い洗礼を受け、欧州が弱肉強食の世界だと知った日本は、教えを請う為に留学に来ていながらもこちらとの距離は保った状態だ。
この「留学」を機会に出来れば日本との関係を他の国(特に米英)よりも深めておきたいとプロイセンは思っていた。
狡猾な自分は多分日本からは警戒されているだろうが、まだ生まれたばかりの弟ドイツ帝国はその幼さを武器に日本に付け入る事が出来るかもしれない。
まだまだ角が多い弟には少し荷が重いかもしれないが、試してみて損は無いと踏んでみた。




だが、ある日思わぬ転機が来た。
家の書斎に閉じこもりがちの日本にドイツ帝国の産業を見学させようと思い、プロイセン、ドイツ、日本の三人で玄関を出たところで偶然オランダに出くわした。
どうやらドレスデンに陶器の買い付けに来たらしい。
暫くプロイセンとドイツとの三人で陶器の受注の話しやライン川のインフラ整備に必要な資材の発注の話しなどをした後でふと日本のほうを見た。
「おぅ日本、居ったんけ?気ぃつかんかったわ」
その言葉を聞いた刹那、日本の顔色が変わったのをプロイセンは見逃さなかった。
「ええ、この度我が国独自の憲法を作成する為プロイセン君の許に暫くお邪魔しているんです」
しかしその直後にはいつもと変わらぬ愛想笑いを浮かべる日本。
「ほうけ、お前も色々大変やけど頑張れや」
それだけ言うとオランダは「ほな又の」と言って行ってしまった。
旧知の仲とは思えない淡々としたやり取りに正直プロイセンは拍子抜けした。
「じゃあ行こうか」
ドイツに促され、日本は無言のまま家の前の馬車に乗り込んだ。
「………」
窓に肘をつき、プロイセンは一つ溜息を吐く。
それ以降日本が自分から何かを話すことは無かったし、こちらから話しかけても会話が続かなかった。

「……はぁ」
せっかくプロイセンとドイツが外に誘ってくれたのに、今日は楽しめる気分ではなかった。
日本は自室に帰り、ソファに座って宙を見詰める。
『おぅ日本、居ったんけ?気ぃつかんかったわ』
彼のあの言葉を今日は何百回頭の中で反芻しただろう。
今まではオランダが日本に来てくれていた。
…日本に会う為に。
彼はいつも自分のことを気にかけてくれた。
あの頃は自分だけを見ていてくれた。
だから自分は彼にとって特別な存在なのだと思っていた。
…分かっている。
彼にだって自分の家が有り、そこには日本が知らない彼が居る事くらい。
頭では分かっているけど、どうしても心では理解できないのだ。
『居ったんけ?気ぃつかんかったわ』
自分の居るべき場所にいなければ認識してもらえない多数の中の一人。
彼にとって自分はそんな瑣末な存在だったのだ。

二百五十年の間、オランダは日本を気を引き続ける為に日本を世界から隔離した、そして世界の全ての情報はオランダの都合のいい報告書のみで日本に教え、更にその生活に飽きさせない為にあらゆる手段で日本を楽しませた。
砂糖、生糸、蘭学、ガラス工芸、駱駝、像、パイにチョコレート。
そして抱擁と情交…。
ずっと日本にかしずいて甘い夢を見せてくれた彼はもう居ないのだ。
日本は今でもあの頃のオランダの白い肌の感触を思い出せると言うのに…。
ノックの音がした。
返事はしなかったが「入るぞ」と声がして扉が開き、声の主のプロイセンが入ってきた。

「………」
プロイセンが部屋に入ってから日本はふいと横を向いたまま口を閉ざしていた。
L字型のソファの角にプロイセンが腰を下ろす。
「…お前、やっぱり今でもオランダが好きなんだな」
突然破られた沈黙、そしてその言葉のあまりのストレートさに日本は俯いたままビクンッと肩を震わせた。
「……好き、とか…、…そんなんじゃ…無い、です…」
彼と出会ってから今まで『好き』などと言う感情を抱いたことは無かった。
ただ、彼が出島から出て行ってから、日本は何を信じていいのか、どうすればいいのか全く分からなくて、不安で仕方がなかった。
アメリカやイギリスがニコニコ笑いながら近づいてきたときも、もしここにオランダが居てくれたらきっと助けてくれるのにと、そう思うことはあったがそれは叶わぬことだった。
江戸末期、まるで台風が通り過ぎたかのような騒ぎがあった。
その名はフェートン号事件。
オランダの国旗を掲げた船が長崎港に近づいてきたので招き入れると、それは香港を視察に着たイギリス船だったのだ。
イギリスはオランダを人質に取り、屈辱的な態度で日本を蹂躙した。
「お前の国力が弱ってる事はこないだの件でイギリスにばれてもうたんやさけ、何時あいつが軍艦引き連れてお前んとこ来てもおかしないねんぞ」
オランダはあの事件以来しきりに日本に開国を勧めていた。
しかし日本は頑なにそれを拒んだ。
「でも」「だって」「嫌だ」を繰り返し、オランダに甘え続けた結果がこの体たらくだ。
もう彼にはとっくに愛想を尽かされてしまっている。
自分にはもう彼の「特別な存在」でいられる程の魅力は無いのだ。
改めてそう思うと、にわかに日本の目に涙が溜まり、そしてその雫が膝にぽたりと零れ落ちた。
「……あ」
不意の事に自分自身が驚いて声を上げる。
表現しがたい何かが胸いっぱいに膨れ上がり、日本はぎゅっと唇を噛みしめる。
「…すみません、あの、部屋を出ていただけませんか…?」
聞こえないように小さく鼻をすすってそう言うのが精一杯だった。
しかしプロイセンはソファから動かない。
これ以上一秒でも嗚咽をこらえることは難しい。
しかしここまで一人で感情を抑えて頑張って来たのに今更誰かに弱味を見せるわけには行かない。
「すみません、…気分が優れないので、…今日はもう…休みたいと思…いま…」
日本はにわかに立ち上がり、会釈もそこそこに寝室のドアに向かった。
「待てよ!」
そう言ってプロイセンは反射的に立ち上がり、日本の腕を掴んだ。
「………!! 」
プロイセンはぎゅっと唇を噛み、掴んだ腕を引き寄せて日本を抱きしめた。
「大丈夫だ、落ち着け」
それはまるで、感情を持って行く場が分からず泣いて暴れる子供をたしなめる様な抱擁だった。
「は、離してください…!」
突然の事で日本もどう対応していいか分からず、大きな抵抗は出来なかった。
「……っ」
ただ胸が苦しくなったのは抱きしめられた閉塞感だけではない筈だ…と思う。
「…お前は悪くない」
日本は耳を疑った。
「な…、え……?」
プロイセンの言っている意味が分からない。
「お前は悪くないし弱くも無い…、泣きたかったら気が済むまで泣いたらいい」
「………」
しかし日本は唇を噛み締め、何度か深呼吸をし、何とか心を落ち着かせた。
そうだ、今は「強者」である彼だって昔は利用されたり蔑まれたりしていたはずだ。
「自分は悪くない」「自分は正しい」。彼だってそう思って強くなっていったのだろう。
「…すみませんでした、取り乱してしまって…」
プロイセンから離れようとするが、離してくれないので離れられない。
「………あの…」
離してください。
そう言うのは簡単な筈だった。
「………」
でも本心では離れたくは無かった。
「…すみません。暫くこのままでいてもらってもいいですか…?」
そう言ってプロイセンの背中に両腕を回して目を閉じる。
誰かに抱き締められるなんて何年ぶりだろう。
「いや、それはご免だな」
予想に反する答えに日本はにわかに顔を上げた。
「続きは…、あっちで…、な?」
プロイセンは視線を寝室に向ける。
「………っ」
日本は暫く言葉に詰まって固まっていたが、口を一文字に結んで小さく頷いた。


「…ふっ…、んんっ…」
合わさった唇からプロイセンの舌が進入して日本の口腔を弄ぶ。
舌と舌が絡みあい、唇で強く吸われる。
ベッドの上で絡み合う裸体。
部屋にかすかに響く湿った喘ぎ声。
肌と肌が触れ合う感触。
粘膜と粘膜が触れ合うぬるぬるとした微妙で繊細な感覚。
汗ばんだ肌の匂い。
お互いの吐いた息を吸い、交じり合った唾液を嚥下する。
――全てが心地いい。
カラカラに乾いた身体が満たされて行く気分だ。
ちらりとプロイセンの顔に視線を向ける。
ぎらぎらと光る刺すような紅い視線がまるで獣のようで、その目に見られてると思っただけで背中がゾクゾクした。
お互いがお互いを貪り合う、貪欲な交わり。
「…入れるぞ」
両膝を大きく割り広げられ、唾液で濡らした中指が菊座に挿入される。
「んんっ…ぁあっ!」
日本の腰がびくんと跳ね、甘美な痛みを受け入れた。
「はぁ…、んんっ…」
プロイセンの指の腹が粘膜の内壁を掻く。
「ぁ…、ふぁ…っ、…んんっ!」
指先が下腹の隆起部分に触れるたび、日本は締りのない口元から喘ぎ声を発しながらぴくんっと身体を震わせた。
その表情に煽られて居ても立ってもいられなくなったプロイセンはにわかに指を引き抜き、代わりに反り勃った己の怒張を充てがった。
日本の熱く充血した菊座に既に先走りの液でぬるぬるに濡れたプロイセンの鈴口から雁が埋まっていく。
「ああっ…、んっ…!大き……っ!」
中指と比べ物にならない太さのペニスに押し広げられ、日本の下腹に電流が走った。
唇を噛みしめて、プロイセンの背中に回した腕にぎゅっと力を込める。
プロイセンの腰がゆっくりと奥に進む。
内臓が持ち上げられるような気持ち悪さと説明の付けようの無い心地よさに、日本の目尻に少し涙が滲んだ。
「すげ…、お前のここ、ぎゅうぎゅう締め付けて奥に飲み込まれていく感じだぜ」
根元まで入ったことを確認すると、プロイセンは大きく息を吸い、ゆっくりと腰を前後に動かし始めた。
「んんっ…!んんっ…!あぁっ……」
ぴりぴりと身体中のあちこちに弱い電流が走る。
「ひっ…、ぁあっ…、んんっ…」
段々腰の動きが早くなっていき、日本の喘ぎ声が切羽詰ってきた。
「いっ…ぁ…、もぅ…、あぁっ…!! 」
思わずプロイセンの背中に爪を立てる。
ゆっくりと彼の顔が近づいてきて、熱い息が顔にかかる。
再度喰らい付くようなキスを交わしながらお互い昂りを迎え、果てた。


目が覚めて一番に目に入ったのはプロイセンの腕だった。
「……ぁ…」
背中から抱かれる形で腕枕されていたのだ。
「………」
先ほどの罪悪感や嫌悪感はすっかり晴れて、今はこうやって触れ合うに抵抗はないし、むしろ心地いい。
そっとプロイセンの腕に触れてみる。
細身だが引き締まった筋肉、そしていくつもの傷跡…。
普段は弟とじゃれ合うのが好きな少しお調子者な青年に見えるが、それは「強者の余裕」なのだと改めて思った。
「…ん?起きたのか?」
耳の後の辺りから少し寝ぼけた声がした。
「…はい」
そう答えた後暫く沈黙が続いた。
彼は自分をどう思っているのだろう。
この後彼にどう接すればいいのだろう。
「別に俺はお前の事を取って食おうなんて思ってねぇよ」
そう言われて日本は少し驚いてピクンっと肩を震わせた。
「これでも俺は二百年前からお前の事を認めてるんだぜ?他のアジアの国のことはよく分かんねぇが、お前なら俺たちとやっていけるんじゃねぇの?」
日本は黙ったままだった。
それでも彼は自分を狙っているのだ。
彼の言うことを全て否定することはないが、鵜呑みにすることは出来ない。
振り向きも返事もしない日本に、プロイセンは口元に少し苦々しい笑みを浮かべた。
少々可愛い気が無いようにも見えるが、それくらいでなければここではやっていけない事も分かっているからだ。
腕枕を解き、一つ大きな伸びをして、プロイセンは上半身を起こした。
時計の針は夕食の時刻に近づいている。
「…もうこんな時間か」
お互い服を着てベッドから離れた。
寝室を出る時に、不意に抱き寄せられ、一瞬だけ唇が重ねられる。
「…またやろうぜ?」
耳元でそう言って日本の髪をくしゃっと撫で、プロイセンは自分の部屋に戻って行った。
「………」
ドアが閉まり彼の姿が消えた後、先ほど触れらた唇を中指で触れて日本はため息で笑った。
――こんな関係も、悪くはない。