わんこ顛末記
何か変な夢を見ていた気がして、本田菊ははっと目を覚ました。
「……!」
ほんのりと赤く暗い部屋の中。今は一体何時なのだろう?
明け方?夕方?それすらもあやふやだ。
耳元で静かな規則正しい呼吸音が聞こえる。
胸が重くて苦しい。
見上げた天井は細かいドットのように無数の小さな穴が開いている。
窓の外から体育会系部員の掛け声が聞こえてくる。
――ここは学校だ。
正確に言えば、学校の倉庫を改造した漫研の部室だ。
隣の、自分を抱いている寝息の主はルートヴィッヒ。
フェリシアーノがシエスタ用に持ってきたマットレスの上で二人は半裸の状態で毛布を被って眠っていた。
腕時計を見ると6時前だった。文化系クラブはそろそろ下校しなければならない時間だ。
「ルートヴィッヒさん、ルートヴィッヒさ ん…、もう下校時間ですよ…」
そう言って筋肉質の肩をぽんぽんと軽く叩く。
「…んー…」
眉間に皺を寄せ、ルートヴィッヒが寝返りを打つ。
そんな様子を見て菊はなんとなくくすぐったい気分になってクスッと笑った。
二人が「こういう関係」になってまだ日は浅い。
菊も以前からルートヴィッヒのことは好きだったので、彼から好きだと言ってもらって嬉しかった。
現在は学園祭前で、同じ漫研部員のフェリシアーノが、掛け持ちをしている美術部の方で、展示物とコンクール出品物の作成の為軟禁されている状態なので、事実上漫研は菊とルートヴィッヒの二人だけである。
一度こういう関係になると、まだ若いルートヴィッヒにはなかなか歯止めがかからないようで、放課後部室に来る度、身体を求められるようになってしまった。
…それが嫌だというわけではない。
しかし、漫研も文化系クラブなので、学園祭に向けて展示を行わなければならないのである。
仕方なくルートヴィッヒの気を紛らす為と、展示物作製のアシスタントにアジアクラスの知り合いを連れて来る事にしたが、彼らも色々と忙しく毎日は来て貰えなかった。
だから週に1〜2度はこんな風に部活が潰れてしまう。
帰ってから今日の分のノルマをきっちりこなさないと…
そんなことを考えながらマットレスから降りようとした所で、不意に腕を引っ張られ、ルートヴィッヒの許に引き寄せられた。
「本田…」
前髪をかき上げられ、額と唇にキスされる。
「もう一回…、うわあっ!! 」
いい加減にしろと言いた気に、半ギレ気味に引きつった笑顔の菊がルートヴィッヒの両方のこめかみをゲンコツでグリグリした。
「…ルートヴィッヒさん。今私たちがしなければならないことは、二週間後の締め切りまでに原稿の編集を終わらせることなんですよ?」
「…すまない、少し…その、…調子に乗ってしまったようだ」
寝癖の付いた髪を手櫛で直しながらルートヴィッヒが申し訳なさそうに謝った。
お互い制服を正してテーブルの上の画材を片付ける。
「それでは明日までに、このコピーの指示どおりにトーンを貼ってきてくださいね」
そう言って菊は原稿とそのコピーの入った封筒と、トーンの入ったファイルをルートヴィッヒに渡した。
「………」
そして握った右手の小指だけ立てて、ルートヴィッヒの目の前に差し出す。
「約束してください。…文化祭が成功するまでは禁欲するって」
「………」
菊の真剣な面持ちに反論することが出来ず、ルートヴィッヒも右手を差し出す。
「指きりげんまん」
小指同士を絡め、菊が小さな声で唄を呟く。まるで呪文を唱えているようだ。
「嘘ついたら針千本飲ます、指切った」
そう言って結んだ小指を強引に振り切る。
かわいらしく、面白い風習だとルートヴィッヒは唇の端を少し緩める。
「ねぇ、ルートヴィッヒさん…、この『指きりげんまん』の『げんまん』と言うのは、本来は『拳骨で一万回殴る』という約束を示しているんですよ」
上目遣いの真面目な顔で、菊がそう呟く。
「約束を破った者は拳骨で一万回殴られた上に針を千本飲まなければならない、と云う約束なんです。…心して守ってくださいね」
ルートヴィッヒのほうを見上げていた視線を落とし、ゆっくりと落ち着いた声でそう云われ、ルートヴィッヒは背筋に寒いものが走った。
「…あ、ああ、…判った。…約束を破るようなことはしない」
その言葉を聞いて、菊はにっこりと笑った。
「…文化祭、頑張りましょうね」
仕方が無い事だ。今の菊は兎に角漫研を部として認めてもらうため必死なのだから。
「うん、そうだな。…頑張ろう」
そんな菊に惚れてしまったのだから仕方がない、と、ルートヴィッヒも少し表情を緩めた。
――…それから何日か経ったある日の放課後…
「あああっ!ムカつく!! あのクラウツの包茎クソ野郎!!
」
机の上に乱暴に足を乗せ、頭の後ろで腕を組むアーサー・カークランドのその姿は、彼の目指す『紳士』とは程遠い。
「…あそこの兄弟揃ってムカつくけど、弟の方が更にムカつく!!
」
ここは生徒会室。
生徒会室として使うには勿体無いほど美しい椅子や机などの調度品が揃えてあるのは副会長のフランシス・ボヌフォワの趣味だろう。
今日はまだ生徒会役員は誰も来ていない。
会議は4時からだったはず。時計を見ると3時35分だった。
「………」
ワンマン生徒会長で友人も少ないアーサーは、大抵授業が終わると掃除もほったらかしで生徒会室に直行する。
生徒会室には彼の私物が置いてあるので、いくらでも暇つぶしが出来るからだ。
「あぁ…、なーんか気分が納まらねぇなー、あの下品なゲルマンに一泡吹かせてやりてー」
権力主義者のアーサーと、合理主義者のルートヴィッヒはままに意見が衝突する。
意見的にはルートヴィッヒの方が正論であることが多いが、アーサーはそれを認めない。
大抵はアーサーが圧力をかけて自分が正しいと言う事にしてしまうのだが、最近は生徒の中にもルートヴィッヒに味方するものがちらほら現れつつあった。
何とかルートヴィッヒにギャフンと云わせたくて、その方法を考えていると、外から子犬の鳴き声が聞こえてきた。
「…ん?」
窓の外を覗いてみると、学校の外で子供たちが野良の子犬を虐めていたのだ。
「…………犬か…」
犬、…そうだ!犬と言う手もあるじゃないか!
椅子から立ち上がろうとしたが、体勢を崩して床に転がり落ちた。
「はははっ!見てろよキャベツ野郎!」
椅子から転げ落ちたところを誰にも見られていなかったか周りをキョロキョロと見回した後、高らかに笑い声を上げ、アーサーは会議の事も忘れて家に帰ってしまった。
次の朝、アーサーは珍しく早めに学校に向かった。
学校の中庭の植え込みに隠れ、ルートヴィッヒが登校して来るのを待ち続ける。
いつもはローデリヒ、ギルベルト、フェリシアーノなどと登校する事が多いルートヴィッヒだが、最近は一人で少し早めに登校しているようだ。
「ククッ…早く来やがれジャガイモ野郎!」
校門から校舎に行くには必ずこの中庭を通る。
時刻は7時10分。
体育部の朝練メンバーは既に登校し終わっているので今の時間帯は殆ど登校者はいない。
アーサーは魔方陣が描かれた1メートル半四方はあるはぎ合わせた羊皮紙を地面に広げ、呪術書を握り締めた。
魔方陣は昨日学校から帰って徹夜で描き上げたものだ。
「あの真四角野郎を犬に換えて、誰が一番偉いのか上下関係をきっちり仕込んでやる!」
と、その時、校門をくぐる影が見えた。
「来たか!」
確かにそこにはルートヴィッヒが一人で歩いていた。
アーサーは茂みから立ち上がり魔方陣の中に入り、呪文を詠唱する。
「おお…主よ、我が崇める神は汝の他に…無し。汝にあらざ…?あらざる…我はな、何も持たず」
ルートヴィッヒがだんだん近づいてくる。
徹夜明けのアーサーは呪術書を睨みながらつっかえつっかえラテン語の呪文を読み上げていく。
「ルートヴィッヒさーん!」
ルートヴィッヒの後ろから菊が小走りで追いかけてきた。
「おはようございますルートヴィッヒさん。昨日のトーン貼りは全部出来ましたか?」
なんとか追いつき、ルートヴィッヒの横に並んで歩く。
「ああ、おはよう。ベタ貼り状態だが一応全部貼っておいた」
ルートヴィッヒが菊の歩く速度にあわせて歩幅を縮める。
「ありがとうございます!流石はルートヴィッヒさんです!ハイライトなどの仕上げは私の方がやりますからベタ貼りで充分ですよ」
「…御姿を…現わし我の…ね、願いを聞き入れたまえ」
詠唱に全神経を傾けているアーサーは菊が現れたことに気が付いていない。
「聞いてください!私、ペン入れがそろそろ終わりそうなんですよ!」
そう言って菊がルートヴィッヒの前に回り込んだその時―――。
「――あの男を汝の僕とする為、その姿を犬に換え給え!」
アーサーがそう言って指差した先には、ルートヴィッヒではなく、本田菊の姿が……。
「――って…、えええぇえ!? 」
それに気付いたのは、既に呪文の詠唱は終わり、魔方陣から闇の力が空に向かって解き放たれた後だった。
突然菊の周りに稲妻が落ちた。
もくもくと土煙とも火煙ともつかないもやに包まれる。
「うわ!? だ、大丈夫か本………だ?」
「…わんっ!」
煙が晴れ、目の前にしゃがみこんだ菊を見つける。
「…は?」
菊はすくっと立ち上がり膝を払った。
「わんわんっ」
「………!! 」
唖然とするルートヴィッヒ。
「…きゅわん?」
確かにそこにいるのは本田菊本人であったが、その耳は人間の耳ではなくふさふさと毛の生えた獣のものだった。
「―――………」
何がなんだか訳が分からず、呆然と立ち尽くす。
しかし、校門の方から先生たちの声が聞こえてきたので、このままではいけないと菊を抱えて走り出した。
アーサーはとっくの昔に生徒会室に逃走していた。
一体何がどうしてどうなったというのだろう…。
取り敢えずルートヴィッヒは漫研の部室に入り込んだ。
「わん!」
と菊が鳴き声を上げる。
「しっ!静かに!」
と菊の目の前に右手のひらを突き出し、制止の合図をする。
「…くぁん…」
そう小さく鳴いた後、菊は静かになった。
「……?」
菊のズボンの尻の辺りがもぞもぞと動いている。
ルートヴィッヒが菊のズボンのベルトを外し、ズボンと下着を少しずり下ろすと、ひょこんっと巻いた尻尾が出てきた。
茶色い毛の生えた耳。くるんと巻いた、表側が茶色、裏側が白い尻尾。
これは日本古来の犬種「柴犬」の特徴に似ている。
…ルートヴィッヒは混乱していた。
兎に角この状態の菊を校内で連れ歩くわけには行かないし、一人にする訳にもいかない。
「…本田?」
名前の認識は出来るだろうかと問いかけてみる。
「わん!」
正座の状態で嬉しそうに尻尾を振りながら返事が返る。
…自分の名前は理解しているようだ。
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めて上を向く。
「よしよし…」
家でも犬を飼っているので扱いは分かっているが、目の前にいるのはどう見ても人間なので割り切ることが難しかった。
誰も入っては来ないだろうが、用心の為ドアに鍵をかけようと、ルートヴィッヒが立ち上がると、菊も後ろを付いてきた。
「こら、なんでズボンを脱ぐんだ」
と、菊の脱いだズボンを穿かせようとするが菊は身をよじって嫌がった。
この形状の服では尻尾が出ないため窮屈なのだろう。
仕方がない、どうせ誰に見せるものではないと、上はブレザー、下は裸というアンバランスな格好で過ごさせる事にした。
ドアに鍵をかけたのはいいが、この先どうすればいいのかさっぱり分からない。
出来れば家に帰りたいが、軍事大国であり、日露戦争や人種的差別撤廃提案などで親日な途上国が多い校内で、菊を連れて歩けば必ず誰かから声を掛けられるだろう。
取り敢えず授業が始まって廊下に生徒がいなくなるまで待つことにした。
今の時刻が7時40分。一限目が始まるのが8時40分。まだ一時間はある。
今日は学校を休むということを誰かに知らせたいが、その理由をどう云えばいいか分からず、椅子に腰掛けて頭を抱える。
「…くぅん…」
菊がルートヴィッヒの膝に両手を乗せて、彼の顔を覗き込んだ。
「…大丈夫だ。何とかなるだろう…」
そう言って菊の頭を撫でる。ブレザーの下から見える尻尾がぱたぱたと揺れる。
「わんっ」
優しく撫でられ、嬉しさのあまり興奮した菊がルートヴィッヒに抱きついてきた。
「え!? 」
普段の菊は絶対にこんなことはしない。
情交の時ですらひたすら受身的で、積極的に自分から行動することはない。
抱き寄せてキスをすると、いつも頬を赤らめ困ったように少し眉を寄せる。
嫌なのか?と聞くがいつも必ず俯いて首を横に振る。
はっきりしないその態度に最初は苛立ちも感じたが、何度も身体を重ねた今では、それは「儀式」の一つだと思えるようになった。
そんなことを思い出している間に、菊が嬉しそうにルートヴィッヒの顔を舐め回す。
「おい、こら、ちょっと待て…!」
舐めるなら別の所を…、いや、それは違う。…でも本当は違わない。
右手の親指を菊の下顎に、人差し指中指薬指を鼻筋に持って行き、手で顔をつまむようにする。
これはマズルコントロールと云う、誰がリーダーであるかを教える犬の躾の一つだ。
「くふん…」
「よし、いい子だ」
鼻を鳴らして大人しくなった菊の頭を優しく撫で、唇に短いキスをする。
菊は立て膝の状態で、嬉しそうにルートヴィッヒの背中に腕を回して抱きつき、胸に顔を押し付け尻尾を振った。
「………」
さっきからずっとルートヴィッヒは心の中で、どす黒い劣情と葛藤していた。
『約束してください。…文化祭が成功するまでは禁欲するって』
先日の菊の台詞が頭の中にリピートする。
『約束を破った者は拳骨で一万回殴られた上に針を千本飲まなければならない、と云う約束なんです。…心して守ってくださいね』
拳骨で一万回殴った上に針を千本…、軍事大国大日本帝国ならやりかねないかもしれない…。
いや、他の奴等にならまだしも、恋人である自分にそんな事はする筈はない。
しかし約束は約束だ。約束というものは守るために存在するのだから守らなければならない。
だが、自分は守るべきノルマをしっかりこなしてから学校に来たのだ。
こういう状態なので次の指示が貰えず、することがないなら別にその時間に何をしようが自由ではないか。
…段々考えが屁理屈臭くなってきた。
それも仕方がないことかもしれない。
歴史あるゲルマン民族を統べる国故、普段は自分にも他人にも厳しく有り、落ち着いた風格を漂わせるルートヴィッヒも、年齢は「あの」アルフレドよりも下なのだ。
更に、そこに密室で、普段消極的な恋人が急に積極的な態度に出て来て半裸状態で身体を密着させているとなると、思考回路がおかしくなっても誰も責められまい。
いや、むしろおかしくならない方がおかしいと言ってもいいだろう。
「…本田」
下唇を噛み、神妙な面持ちで声を絞り出す。もう面倒なことを考えるのは止めた。
「俺はここまで一生懸命我慢した。だからここから先は全部お前が悪い、分かったか?」
この辺は確かにあのギルベルトの弟だ。
「わんっ!」
嬉しそうに返事をする菊は多分この後自分がどうなるのか分かってはいない。
「きゃぃん!! 」
倉庫の中に菊の鳴き声が響く。
キスと愛撫を受けている時はきゅんきゅんと鼻から甘えた声を出していたが、いざ挿入しようとすると驚いて暴れだした。
そんなに痛い筈は無い。そこは今まで何度も通じているのだから。
「きゃぃんきゃいんっ!! 」
切羽詰った鳴き声を上げ、身をよじってルートヴィッヒの腕から逃げようとする。
ルートヴィッヒの家では3匹犬を飼っている。
3匹とも大型犬で、普段からしっかり躾をしているはずなのだが、予防接種などで病院に連れて行き、尻から体温を測るときはいつも情けない声で鳴きながら暴れる。
菊がキャンキャンと鳴く度、その事を思い出してしまう。
今まで犬に犯される女のAVは観た事があるが、まさか自分が犬を犯す事になるとは思わなかったな、などと考えると自分のしている事の異常さにちょっと呆れてしまう。
「…ああもう!」
面倒くさそうに声を上げるが、ルートヴィッヒの口元は笑っていた。
今まで菊はこんな風に抗ったことは無い。
多少無茶なことをさせようとしても、多分菊は嫌だとさえ言わないだろう。
それを分かっているからかえって今までルートヴィッヒは菊に対してあまり無理強いを出来ずにいた。
しかし最初から嫌がられるならどうしても無理強いせざるを得ない。
どうせ無理強いするなら今までしてないことをさせてみたいと思ってみた。
「…おいたが過ぎる犬には躾とお仕置きが必要だな」
そう言って制服のネクタイを外した。
「きゃん!」
菊を押さえ込み、両腕を後ろで束ねてネクタイできつく結んだ。
今度は菊の制服のネクタイを外す。
口の中に丸めたハンカチを突っ込み、ネクタイを咬ませて首の後ろで結んだ。
即席の猿轡だ。
「んー!んー!」
それでも足掻いてもがいて何とか逃げ出そうと隙をうかがっている菊の目は、普段の大人しさの無い獣の目だった。
「いい格好だ」
床の上に胡坐をかき、菊をその膝の上にうつぶせに寝かせる。
パン!
手のひらで尻を叩いた。
「んんっ!! 」
ビクンっと身体が大きく震え、一瞬身体が反る。
その後は警戒して身体に力を込め、防御の体制に入った。
今まで背中の方に巻き上がっていた尻尾がだらんと伸び尻を隠す。
「何尻尾で隠してるんだ?ん?」
後ろ側から内股を撫で上げ、尻尾で隠れた部分に指を這わしていく。
「ぅう…!んー!」
必死に首を横に振って、腰を左右にくねらせる。
「ココがそんなに嫌いか?」
ルートヴィッヒの右手の中指が菊の後孔に押し付けられる。
「んー!! 」
くぐもった声がさっきより半オクターブ高くなった。
「身体は人間なんだから…、そんなに悪くは無いはずだぞ?」
ぐっと中指を孔に沈める。
「―――!! 」
ゆっくりと指をねじ込んでいく。
「ん…っ!んんっ…!」
ビクっと身体を反り、腰を引く。
「ここは…嫌いじゃ無かったよな?」
中で指を折り曲げ腹の方の内壁をゆるく掻く。
「んんっ!…んんんっ!! 」
「ん?どうだ…?…身体は…憶えてるだろう?」
うつ伏せの菊の背中に覆いかぶさり、ぺたんと寝ている耳元でゆっくり優しく囁く。
「……!! 」
菊はすくめた首を小さく左右に振った。
ルートヴィッヒは今度は左手で聞くのペニスを優しく握り締めた。
菊のそれは既に硬く大きくそそり立ち、肌の色の包皮から、先走りの液で濡れた赤黒い先端が覗いている。
「気持ちよさそうだな…、これならもう大丈夫だろう」
指を引き抜き、尻を高く引き上げ、四つんばいにさせる。
「…っふぅ…、んんんっ…!! 」
「…やはり犬なら後ろからの方がいいだろう」
首を押さえつけ、尻を突き上げさせ、筋肉のほぐれた処にルートヴィッヒの怒張したペニスを突きたてた。
たった数日間の禁欲生活だったが、まだ若いルートヴィッヒには「してはいけない」などと言われると余計にストレスが溜まる。
「うっ…!ぐ…ぅっ!ん、んん…ぅ!」
必死に暴れる菊の背中を押さえつけ、ゆっくりと奥に進んでいく。
ぐいぐいと根元まで押し込むと、今度は小刻みに腰を動かし、カリで菊の内壁を掻くように摩擦する。
「んー、んんんっ!! 」
ネクタイで縛った手首から先が充血して赤黒くなっている。
後先の事も考えず、ただこの苦痛から逃れる為にだけ暴れようとする菊を見ながら己の劣情に任せて腰を動かしていると、まるでレイプしている気分になり、背筋がゾクゾクしてくる。
「愛してる…本田…」
耳元で囁く
それに反応し、菊の肩がビクンっと揺れ、「ひっ…!」と小さな声が上がる。
「俺が…お前にこんなひどい事をするのは…、お前を愛してるからだ…。…分かるか?」
段々腰の動きが早くなり、ストロークが大きくなっていく。
肩と背中を思い切り押さえつけ、腰を反らせる。そうすることによって中が一層狭くなり摩擦の刺激が大きくなる。
「…ん、…ん、…ん、…んっ…」
リズミカルに突かれる度、咽喉の奥からくぐもった小さな声が漏れる。その声のトーンが少しずつ上がっていくのが分かった。
菊のペニスを刺激する左手の動きも早くなっていく。
「そろそろ出すぞ…、お前も…イクだろ…?」
「んー…!んっ!…んんんっ!!」
先に菊がルートヴィッヒの手の中に果てた。
「ご主人様より先にイクとは…、ちゃんと躾け直ししなければならんな」
そう言って手のひらの精液を菊の顔に塗りたくった。
「ひん…っ」
息絶え絶えになっているところで小さく鼻にかかった声を上げる。
その穢された顔を後から見てルートヴィッヒは満足そうに菊の中に射精した。
「…ふぅ」
菊の中に果て、そのまま後から抱きしめて床に寝転がったルートヴィッヒは早速賢者タイムに入り、湧き上がる罪悪感に少し胸を痛めた。
「本田…、すまなかったな」
そう言って手と口の戒めを解く。
「…これは…、一体どういうことなんですか?」
そう話しかけたのは先ほどまで犬の鳴き声しか上げることが出来なかった本田菊だった。
不完全だったアーサーの呪いはそう長持ちせず、早々に解けてしまったようだ。
「…え…?」
よく見てみればいつの間にやら耳は元に戻り、尻尾はなくなっていた。
「今何時ですか?何で…私こんな格好をしてるんですか?ルートヴィッヒさん約束を破ったんですか?何で私もこんな事してるんですか…?」
かなり混乱しているようだ。
腕時計を見ると既に一限目が始まっていた。
「落ち着け本田、…取り敢えずシャワーを浴びてこよう」
漫研の部室の裏口を出て非常階段を下りると体育会系のクラブハウスが有り、シャワーがを浴びることが出来る。
シャワーで身体を流し、再度部室に戻ったルートヴィッヒは菊に問い詰められ、今朝あった事を全て白状した。
「酷いです…、ルートヴィッヒさんは約束を破る人じゃないと思っていたのに…」
菊はかなりショックを受けていた。
「すまない、…その、罰は受けるつもりだ。だから許して欲しい」
菊は黙り込んでしまった。
「その話は…また後でいいです…。取り敢えず二限目から出席しないと…」
制服を正すが、ネクタイはヨレヨレになっていて使い物にならないので、二人は購買部までネクタイを買いに行った。
その日の放課後、菊は部活には顔を出さなかった。
「………。」
ルートヴィッヒは黙々と作業を続けた。
その様子を原稿の合間合間に涼やかな笑みを漏らしながら見つめている菊。
作業は殆どせず、マットレスの上で漫画を読んでいるフェリシアーノ。
コンテスト出品作が完成したので、週末まで美術部は休みと言うことになり、久しぶりに漫研に来たが作業についていけず、今日は見学状態なのだ。
「へぇ〜漫画ってこんな風に描くんだぁ〜」
「ルーイが漫画の原稿を描くなんてすごいよねぇ〜」
「俺、この女の子好きだなぁ〜」
「コレ可愛い〜」
作業に参加させると煩くてルートヴィッヒの原稿が進まないのであえて作業メンバーから外したのだ。
「ああっ!」
突然フェリシアーノが奇声を上げる。
驚いたルートヴィッヒは余計にペンを滑らせてしまい、ベタがはみ出した。
「〜〜〜〜〜……!! 」
眉間の皺が3本ほど増える。
「そうだったのかー、一巻のあの伏線はコレだったのかぁ」
「フェリシアーノ!! 」
と大声を出した瞬間ルートヴィッヒの首につけている首輪からほんの一瞬バチっと電気刺激が走る。
「ぅが!! 」
「…ダメですよ、ルートヴィッヒさんっ、作業中はもっと静かにしましょうね?」
にっこりと笑う菊の後に一瞬黒い羽が見えた気がした。
「約束を破ったことは悪いことです。でも私にはルートヴィッヒさんを拳骨で殴ったり、針を飲ませたりすることは出来ません」
今日、部室で菊に会ったときに、昨日のことをもう一度謝った。
内心、菊がそう云う事を確信していたかもしれない。
ルートヴィッヒは緊張を解いて小さく深呼吸をした。
「でもやはり罰は受けると仰ったルートヴィッヒさんの気持ちをそのままにしておくのも悪いと思いましたので、今から罰を受けてもらいます」
そう言って菊はルートヴィッヒの首に腕を回した。
「コレは犬の無駄吠えを矯正するための首輪です。
センサーが咽喉の振動と70デジベル以上の音を感知すると低周波による電気刺激が起こります。
市販の犬用は静電気程度の刺激ですが、これは私が改造したもので治療器のMAX並みの刺激がありますので注意してくださいね。」
首輪を取り付け、更に金具に鍵までかけられてしまった。
「鍵は明日の朝に外して差し上げます。
ふふっ…よくお似合いですよ」
そう言って笑った菊の笑顔は心なしか冷たく感じた。
静かにしている事ぐらいどうと言う事はない、とルートヴィッヒは高を括っていた。
が、
それもフェリシアーノが来ていることを知るまでの間だった。
部活を開始してから40分、ルートヴィッヒは既に6回低周波を受けた。
部活は6時まで、…あと1時間20分はある。
ルートヴィッヒは気が遠くなった。
早く家に帰りたい…、と思ったが、ハッとある事に気づいてしまった。
―――家に帰れば「あの」兄貴がいるじゃないか…!!
…ちらりと菊の方を見る。
まさかそこまで計算ずくだったのかと背筋に冷たいものが走った。
「…今度こそは絶対失敗するもんか!」
ルートヴィッヒの家の近くで、アーサーは懲りもせず魔法書と魔方陣を持って憎き敵を待ち続けていた。